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知っておこう!「年収の壁」
パート・アルバイトなどの中には、配偶者などの扶養の範囲内で働きたいと考えている人も多くいますが、その主な理由は「年収の壁」を超えないようにするためです。今回の記事は「年収の壁」とは何か、そしてこの壁による影響や課題について解説します。なお次回の記事では、2023年10月から開始された社会保険関連の年収の壁に対する支援強化策を中心に、企業が押さえておきたいポイントを解説します。
年収の壁の種類
パート・アルバイトなど(以下、短時間労働者)で収入が一定額より少ない従業員は、健康保険料と年金保険料(以下、保険料)や税金の負担がありません。しかし、一定の収入を超えてしまうと、扶養から外れて保険料の負担が発生したり税金の課税対象になるなど、手取り額が減少する場合があります。このように負担が発生する年収ラインを年収の壁といいます。
年収の壁による影響と課題
「年収の壁」は従業員だけに影響するものではありません。企業の人手不足にも影響しています。
1 企業が抱える問題「人手不足」
近年、人手不足は深刻化しています。少子高齢化による生産年齢人口の減少や時間外労働の上限規制などにより、人手不足が慢性化している企業も少なくありません。このような状況のなか、現在雇用している短時間労働者の労働時間の延長は、解決策のひとつといえます。
2 短時間労働者が「就業調整」せざるを得ない現状
企業が短時間労働者の労働時間延長を求める一方、短時間労働者は就業調整(年収や労働時間の調整)をしながら働いている状況がしばしば見受けられます。この就業調整をする理由のひとつが「年収の壁」です。いくつかある年収の壁のなかでも、健康保険や年金(以下、保険)にかかわる「106万円の壁」と「130万円の壁」は短時間労働者がもっとも意識する壁です。これらの壁を超えると、配偶者などの扶養から外れ、その後は短時間労働者自身が保険料を負担することになります。このとき問題となるのが、収入の増加額より保険料が高くなるケースです。つまり、労働時間を増やしたにもかかわらず、手取り額が減少するという、働きがいを感じられない状況が発生してしまう可能性があるのです。
2021年の厚生労働省の調査によると、配偶者がいる女性の短時間労働者のうち、何らかの理由で就業調整をしている人は21.8%でした。その理由として57.3%が「130万円の壁」、21.4%が「106万円の壁」と回答しています。(複数回答)この調査結果からも、年収の壁を意識して収入を増やさないように調整している人達が一定数いることが伺えます。人手不足の解消が急がれるなか、こうした就業調整は大きな課題といえます。企業側と短時間労働者側の相容れない状況を打破するためにも、年収の壁の解消が求められています。
106万円の壁とは
「106万円の壁」は保険の壁のひとつです。社会保険の適用拡大により、被保険者数101人以上(※)の事業所(特定適用事業所)に勤務する短時間労働者は、以下の要件のすべてに該当するとき、協会けんぽや健康保険組合などの社会保険(以下、社会保険)の被保険者となります。 ※2024年10月からは51人以上
①週の所定労働時間が20時間以上
②所定内賃金が月額8.8万円以上(8.8万円×12か月≒年収106万円)
③継続して2か月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない
社会保険の被扶養者として認定される収入基準は年収130万円未満です。しかし、たとえ年収130万円未満でも勤務先が特定適用事業所の場合、年収106万円以上になり、上記の要件に該当すると社会保険に加入して扶養から外れなければなりません。つまり社会保険料の負担が発生します。これが106万円の壁です。そしてこの壁で一番問題とされるのは、壁を超えると収入の増加額より社会保険料の額が大きくなり手取り額が減少してしまう場合があることです。
なお、年収106万円の壁の年収(②の所定内賃金月額)には、以下の賃金は含まれません。
・賞与などひと月を超える期間ごとまたは臨時に支払われる賃金
・時間外労働、休日労働および深夜労働による割増賃金
・通勤手当や家族手当など最低賃金に算入されない賃金
130万円の壁とは
「130万円の壁」も106万円の壁とおなじく保険の壁です。(60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は、130万円をすべて180万円に読み替えます。)年収130万円は社会保険の被扶養者として認定される収入基準です。そのため、年収130万円以上になると扶養から外れなければなりません。そして、以下の①または②に切り替わるため保険料の負担が発生します。これが130万円の壁です。
①勤務先の社会保険の加入要件に該当する場合は社会保険に加入。
②それ以外は国民健康保険に加入。さらに配偶者の扶養(国民年金第3号被保険者)だった場合は国民年金第1号被保険者に変更。
130万円の壁も106万円の壁と同じように、壁を超えると収入の増加額より保険料の額が大きくなり、手取り額が減少してしまう可能性があります。
なお、106万円の壁の年収には、賞与や割増賃金、通勤手当などは含まれませんが、130万円の壁の年収にはいずれも含まれるため注意が必要です。また、給与収入以外にも老齢年金、不動産収入、さらに非課税対象の収入(失業保険、育児休業給付金、傷病手当金、障害・遺族年金など)も含まれます。
そのほかの年収の壁
ここまで保険の壁について解説しましたが、年収の壁はほかにもあります。これらは税金の壁といわれ、「100万円の壁」「103万円の壁」「150万円の壁」「201万円の壁」があります。なお、税金の壁の年収には通勤手当は非課税であるため含まれません。(一部、非課税限度額を超えた通勤手当は含みます。)
1 100万円の壁とは
「100万円の壁」は住民税の壁です。住民税は、前年の所得金額に応じて負担する所得割と、所得金額にかかわらず定額を負担する均等割があります。この所得割、均等割のどちらも課税されない年収ラインが100万円のため「100万円の壁」といわれています。ただし、自治体によって非課税限度額が異なり、年収100万円の基準を下回る場合もあります。
2 103万円の壁とは
年収103万円を超えると以下のような影響があります。(ただし、年金受給者や勤労学生など一部基準が異なる場合もあります。)
【例:夫に扶養されている妻の年収が103万円を超えたとき】
・妻に所得税の支払義務が発生する
・夫が配偶者控除を受けられなくなる(ただし、配偶者特別控除を受けられる可能性あり)
【例:親に扶養されている子の年収が103万円を超えたとき】
・子に所得税の支払義務が発生する
・親が扶養控除を受けられなくなる
つまり、自身の所得税の支払義務が発生するだけではなく、配偶者や家族の所得税や住民税も増額される可能性があります。
3 150万円の壁、201万円の壁とは
上記2の例の場合、妻の年収が103万円を超えると夫は配偶者控除を受けられなくなりますが、妻の年収が150万円以下であれば夫は配偶者控除と同じ額の配偶者特別控除を受けることができます。ただし、妻の年収が150万円を超えると夫の配偶者特別控除の額は段階的に減少します。これが150万円の壁です。さらに妻の年収が201万6千円以上になると、夫は配偶者特別控除を受けられなくなります。これが201万円の壁です。なお、夫の年収が1195万円(所得1000万円)を超えると、妻の年収にかかわらず配偶者控除および配偶者特別控除のどちらも受けることができません。
おわりに
もっと働きたい意欲はあるものの、年収の壁により就業調整せざるを得ない短時間労働者は意外と多くいます。年収の壁を意識せず働くことができる環境づくりは、人手不足の解消や優秀な人材確保にもつながります。そのためにも、労務担当者は年収の壁のしくみを理解しておくことをおすすめします。
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